
大橋しん
終電でひとり、ネオナチに囲まれたらどうする?
更新日:2020年8月25日
ライプツィヒではネオナチのグループに襲撃される事件が頻繁に起こります。
ある女性は明け方アウグスト広場に転がっていたのですが、レイプされて腕に鉤十字のタトゥーが彫られていました。
この事件は僕がこの町に来て最初に報道されたものでしたが、その後もいくつかの事件がありました。
さて、僕が中央で友人と遊んで終電で帰るのが日常化してしまったときに、唐突にまずいことになりました。
Sバーンというボロボロの2階建ての電車で20分、よくストが起こる電車なのですが、他の手段である路面電車では30分以上かかるうえ最寄りの停留所からけっこう歩かないといけないので、普段はこちらを使っていました。
この電車は終電になるとひと車両に一人くらいしか載っておらず、遊んだ帰りにはぼんやり外を見ながら静かに揺られるのが心地よいのです。車掌も殆ど回ってきません。
ある日、同じくサーシャと別れて終電に乗り込み、上階の真ん中に座ると発車しました。
車両には僕だけです。
と思ったら何人か上がってきました。外を見ながら窓ガラスに反射しているのが見えます。
3人。全員スキンヘッド、鋲を打ったボロボロの革ジャン、チェーン…。
まずい。
典型的なネオナチ。全身から汗が吹き出し、頭の中で嵐のように吹きすさぶ思考の中、どうすべきか考えました。
ガラスの反射越しに、彼らが僕を見て明らかに気に食わなさそうな顔をして近づいて来るのが見えます。
選択肢は、
①走って逃げる
②眠ったふりをする
③大声を出す
以前、町中で松葉杖をついたネオナチ(よく喧嘩をする)がトルコ人を威嚇しているのを見たことがあり、彼が相手が怖がっているのを楽しんでいたように見えた事を思い出しました。
①③は相手のアドレナリンが出そうだ。
②にしよう…。
3人はすぐ手前まで来て、おい、どうする、と言ったことをつぶやいているようです。
僕は気だるくぼんやり窓の外を見て半寝状態を装っていました。心臓がバクバクしてその音がうるさくて相手に聞こえるんじゃないかと思いながら。
3人は交互に顔を見合わせたあと、しばらくして下の階に戻っていきました。
やり過ごしたのがわかって力を抜くと、汗が大量に吹き出してきました。インナーを絞ったら水滴がこぼれそうです。口がカラカラで、ガラスに映った顔がまっさお。
後で考えてもちょっと軽率だったかなと思います。相手が酔っ払ったりテンションが上っていたりでもしていたら絡まれた可能性は高かったでしょう。
耳か指か歯か、どれか一つはなくなっていたかもしれない。
東ドイツでは、統一後の失業増加と生活の改善がなかなか実現しないことから、憎悪が外国人に向けられネオナチが台頭してきていました。
町中ではあまり見ないのですが、郊外のバーなどでたむろしていたりする話は聞きました。
ドイツの教育システムにも問題があるとも聞きました。教育は基本無料、学校は午前中だけで一見よさそうなのですが、できるできないの差が極端でグルントシューレ(基礎学校)が終わる10歳までに、大学へ行くか職人になるかが概ね決まってしまいます。
それが原因でドイツの大人には文盲であったり、簡単な割合や確率の計算ができない人もいます。
落ちこぼれるとグレやすいのは日本と同じで、そういった人たちの救済制度もあるのですが、文盲だとそれも使えない。
ドイツの社会制度はきっちりしているのですが、もしかしたら箱は立派でも現状に対応できていないのではないかと思います。
先進国でEUの経済トップと言われているのに失業率18%というのはちょっとどこかに根本的な問題があるんじゃないかと疑ってしまいます。
とにかく、今回は無事に切り抜けることができました。しばらくは終電に乗る気にもならず、他の人が乗っている時間帯にはおとなしく寮に帰ることにしました。