
大橋しん
ルーツとアイデンティティ
更新日:2020年8月25日
僕の右に座るモルドヴァ人のオルガと左に座るシリア人のネジャッドは、ルーマニア語で話します。
ネジャッドがルーマニア語を話すと分かったオルガは途端に巻き舌のRがいっぱい出てくる言葉で爆発的に話し始めました。
僕がシリアとモルドヴァが同じ言語で?不思議だと言うと、
「ルーマニアにとっては黒海を超えてトルコの次はシリアなんだよ」
ネジャッドが教えてくれました。
シリア人にとってアラブ語のトルコをスキップして、第一外国語はルーマニア語となるから話せるシリア人もままいると。
一方モルドヴァはもともとルーマニアの一部で、分割されているがルーツは同じとのこと。
ルーマニア語は「ローマン」といって、ローマ帝国の名残。
イタリアの西ローマから遷都したコンスタンティヌス、東ローマ帝国コンスタンティノープル、後に西ローマが滅びてビザンツ帝国として存続し、トルコに侵略され町はイスタンブールとなります。その西はブルガリア、ルーマニアは北。
スラブの土地を支配したイタリア人によって、ルーマニアはラテン系カトリックの性質をベースに持つことになり、オルガは黒髪で体毛が濃く(ひげがある)、巻き舌のRを多用した喋り方をします。
そしてソヴィエトに支配され、ロシア語を話します。
ロシア語を話すのに、ロシア語とロシア人を憎んでいます。
11歳まで、学校でロシア語を強要されたから、と言います。
両親とも祖父母とも違う言語を使わされ、モルドヴァ語を使うと厳しい罰則があったそうです。ソ連解体の16歳まで、公用語はロシア語でした。
wikipediaでモルドヴァ公国の歴史の項目を読むと飢餓と侵略のことばかりで、その原因にロシアとソヴィエトが絡んできています。
オルガがロシアを憎む理由は実害に遭ったというより、代々そう教育されてきたからのようです。
ヘルダードイツ語学校には東ヨーロッパ出身の生徒がたくさんいることが分かってきました。旧ソヴィエトか、そのプレッシャーを受けた人たち。
ルーマニア、モルドヴァ、ブルガリア、ベラルーシ、ウクライナ、アルメニア、ポーランド…、みんなロシア語が話せるのに、ロシア人を嫌っているようです。
一方、ロシア人の生徒数も結構多く、他のクラスに固まって多いのでどうも意図的に分けられているようでした。
ロシア語を話すグループが2つあるのですが、交流は完全に分かれているのです。
「まあまあ。昔のことは忘れて、仲良くしようよ」
とてもそんな事が言い出せる雰囲気ではなく、僕は互いの言うことを聴くだけ聴くしかありませんでした。
もともと世界史は好きでしたが、こんな体験から民族のルーツと移動、アイデンティティを形づくっているものを調べるようになりました。
大抵、他の国の生徒は自国が大好きで誇りを持っています。そして日本が、日本の文化が大好きだと言います。
僕は複雑な気分でした。ブログの一回目に書いたように、僕は日本文化がダサくて嫌いで、日本の生活がイヤでとにかく出て行きたかったし、実行してきたからです。