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  • 大橋しん

レースクィーンをめぐるふたりのロシア語

ライプツィヒは暗い町だけど、ひとつ華々しいスペシャリティがあります。


メッセ、日本の幕張にあるような大規模な見本市開場があるのです。それは世界最古、1190年から続く見本市で、この町が交易交差点であり、中央駅がヨーロッパ最大だった理由でもあります。


滞在中、このメッセ開場に何度か訪れました。ライプツィガーメッセは特にブッフ(本)メッセが有名でそちらにも行きましたし、モーターファーラッド(バイク)メッセもバブアー、サーシャと連れ立って見に行きました。



僕のタンデムパートナー、アンヤは本当にイタリアのバイクメーカー、ドゥカティ専属のレースクィーンとしてそのメッセに呼ばれていました。


普段はライプツィヒ大学の学生で、日本にあこがれてヤパノロギー(日本文化学)を専攻し対日本の外交官になる勉強中でした。


僕はそんなスマートでセクシーなブロンドの子と毎週のように会うことになりました。



「ふざけんじゃねーよ」


バブアーはアンヤが僕のタンデムパートナーになってからしばらくの間、ふてくされていました。


彼はウズベクから来た小柄な男で、童顔だけど口ひげを生やし、ビッグマウスで素行が悪いので他の生徒に煙たがられていました。


彼は僕によく話しかけてきて(おそらく見た目がもろアジア+中国人ではないから)、僕はアニメに出てきそうな彼のキャラが面白いし、粗暴な態度だけど実は小心者だと分かり気にならず、彼とロシア語でしゃべるウクライナ人のサーシャとよくつるむようになりました。


バブアーはドイツ語学校でやる気のなさを全開に放っていました。なのになぜドイツに来たのか、話しているうちに次第に分かってきました。


彼の父親はプロレス興行主の豪商で、彼を兵役から逃れさせるために乗り気でない彼を無理やりドイツに留学させたのです。


それでいつもふてくされていたのですが、僕のようなパッとしないジャップがアンヤと毎週のように会うのが相当気に食わなかったようです。


「べつにシンのせいじゃねーし。俺は日本の女のほうがいい」


サーシャはバブアーのようにはふてくされて絡んではきません。


サーシャは狼のように鋭い顔で、190センチのひょろながい16歳の男の子。ウクライナでかなり官位の高いと思われる、警察に勤める父親が、将来を幸薄いウクライナよりもヨーロッパの西側で、と考え彼をドイツに送り込んだようです。


彼は美術関係の勉強をしようとしていましたが、スティーブ・ヴァイジョン・マクラフリンが大好きなギター小僧で、僕がチェロを弾くと聞いて音楽の話をするようになり、次第に日本から持ってきたCDを貸したりしているうちに仲良くなりました。


バブアーとサーシャはロシア語で話すので彼らだけの会話は僕には全然分からないのですが、バブアーは僕をバカにしながら悪態をつき、サーシャが僕をかばっているようでした。



僕はアンヤに日本人を探しているドイツ人にはアニメオタクが多いのかと聞きました。


「確かにヤパノロギーの子たちってアニメが入り口だし、ちょっとコーミッシュな(妙な)人が多いわね」


今でこそアニメ文化もかなり世間のコンセンサスを得られるようになったけれど、20年前は日本でも世間の目はオタクに厳しかったし、ドイツでは相当変人扱いされただろうと思います。


「私はハヤオ(宮崎)は好きだけど、アニメファンってわけじゃない。日本の禅や侘び寂びに魅力を感じてるの」


といった様子で、アンヤと僕はお互いのカルチャーやサブカル、そして来年に迫っていた2002年日韓ワールドカップ、サッカーのことなどを話して過ごすのでした。


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